風が育む「雪」の賜物

鳥取砂丘の砂を生み出す中国山地へと急流を遡ると、冬には「山雪」に深く覆われる山郷へ辿り着く。

風が育む「雪」の賜物
  • 杉神社
  • 太田家住宅
  • 板井原集落
  • 21氷ノ山後山那岐山国定公園

豪雪が育む良質な杉で栄えた山郷

鳥取砂丘の砂を生み出す中国山地へと急流を遡ると、冬には「山雪」に深く覆われる山郷へ辿り着く。そこでは無数の深い谷の奥に茅葺屋根の小さな山村がひっそりと隠れ、鬱蒼とした杉林を背に豪邸が佇む。
山間部の繁栄を象徴する「石谷家住宅」は、かつて宿場町として栄えた古い町並みに佇む大正期に建築された豪邸で、広大な敷地の中に7つの蔵と40を超える部屋を有する。主屋の土間に入ると、巨木を使った梁組が14mもの高さに組まれており、訪れる者を圧倒する。
こうした大邸宅は、江戸時代から続く林業の繁栄によって生まれたもので、高窓からの採光や太い梁・柱などに豪雪への備えを見ることができる。冬の豪雪と寒さは、枝が雪の重さで下向きに成長する木目の詰まった天然の杉を誕生させ、人々はこの天然杉を挿し木で増やし、この地に適した優良大径木の杉林を育てあげた。樹齢約350年の「慶長杉」と呼ばれる日本最古の人工林は、山を生業の場とした長い歴史を物語り、繁栄をもたらした杉への感謝の念は、杉の精霊を祀る白い三角形の塔を御神体とする「杉神社」となって表れている。杉の人工林と里山の天然林が織りなす美しい林業景観では、酒蔵や家々の軒先に吊るされた杉玉と冬の雪灯篭の灯りが、杉の香りとともに旅人を出迎えてくれる。


若桜鉄道と雪国の街並み
杉材や木炭などの森林資源の輸送路として、昭和初期に開業した「若桜鉄道若桜線」では、開業時に建てられた木造の駅舎が立ち並び、終着駅に降り立つと、手動式の転車台で転回する蒸気機関車が残っている。駅前には積雪に耐える赤瓦を葺いた白壁の土蔵が立ち並び、豪雪対策として家の庇を道路側に伸ばした「カリヤ」と呼ばれるアーケードと山からの清流を運ぶ水路が通りに沿って続いている。これらは明治18年の大火を契機に、住民自らが設置したものであり、カリヤの下では、雪の日でも水路のせせらぎとともに人々の話し声が今も響いている。

雪化粧が似合うこの町を背に、さらに源流へと分け入ると、仰ぎ見る天然の岩窟に、舞台造りの「不動院岩屋堂」がすっぽりとおさまり、神仏の宿る岩窟の中では、村人たちが1,000年以上もの間、護摩の煙を立ち昇らせている。

「雪」に関する構成文化財

若桜鉄道若桜駅本屋及びプラットホーム、転車台ほか計23件
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杉材や木炭の輸送路として、昭和5年に開業した森林鉄道。木造の駅舎群や石積みのプラットホーム、橋脚、「雪覆」と呼ばれる山から線路への落雪を防ぐトンネル、流雪溝などが開業当時のまま残る。終着駅では、手動式の転車台で転回する蒸気機関車の運転体験を行っている。
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石谷家住宅
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江戸時代の宿場町に佇む大邸宅。杉が多用され、3,000坪の敷地の中に、山で働く人の作業場、巨木の梁組が見渡せる吹き抜けの土間や40を超える部屋を有する山主の住居、7棟の蔵をもつ。宿場町の名残をとどめる町並みには、酒蔵や家々の軒先に杉玉が吊るされ、冬には雪灯篭が立ち並ぶ。
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智頭町板井原伝統的建造物群保存地区
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杉林に隠され、「六尺道」と呼ばれる幅1.8mの古道以外に交通路の無かった標高約430mにある山村。茅葺き屋根の古民家、水車、炭焼き小屋など、杉林に守られながら暮らした生活の場が昔のまま残る。
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智頭の林業景観
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枝が雪の重みで地面に押さえつけられて発根する沖ノ山天然杉の性質を利用した育苗・造林技術の確立により形成された杉の人工林と天然の森林、江戸時代から続く人々の林業への営みから生まれたもので、茅葺民家の山村集落や宿場町、旧街道、森林鉄道の軌道跡等が残る文化的景観。
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杉神社
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杉を神格化した神社で、町民が私財を投じ建立した。三角錐の形は、杉の姿を表現している。
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矢部家住宅
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江戸時代に大庄屋を務め、当時の上層農家の佇まいを残す格調高い建築。茅葺屋根や太い柱などに雪への備えが施されている。
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太田家住宅主屋、新建、門長屋
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中国山地を背に主屋や新建、数棟の土蔵が建つ。土間の高窓から採光を取り入れるなど、雪深い気候に対応した造りが施されている。
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三百田氏住宅
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因幡地方の最奥の村で、江戸時代に庄屋を務めた旧家。中国山地を背に茅葺屋根、太い梁や柱など、雪深い気候に対応した造りが施されている。
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氷ノ山後山那岐山国定公園
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氷ノ山をはじめ、標高1,000mを超える高く険しい山々が連なり、冬に大陸から吹き寄せる季節風を受け止め、「山雪」を降らせる。風がもたらす重い雪は、強い杉を育む環境を生み出し、林業を発展させた。
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蔵通り
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積雪に耐える赤瓦を葺いた白壁、下見板張りの土蔵が約300mにわたり連なる。明治18年の大火を機に、住民主導の都市計画に基づき整備され、妻入の土蔵が立ち並ぶ景観は、通りに落雪しない配慮によるものといわれる。
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仮屋通り
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家の庇を道路側に1.2m伸ばし、雪の時にも軒下を通れるようにしたアーケード。雪と共存する生活の知恵として、現在も活用されている。通りに沿って流れる水路は防火用水や流雪路の役割も持つ。
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木島家住宅主屋
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明治18年の大火を機に、若桜宿の復興計画として定めた「宿議決書」に基づき、明治20年に建築。典型的なカリヤを持つ建築で、現在は休憩・交流所として活用されている。
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不動院岩屋堂
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杉の大木の間から覗く天然の岩窟に佇む舞台造りの建造物で、南北朝時代の建立とされる。豪雪が雪解け水となり、岩を浸食したことで形づくられたとされる岩窟を、先人は神仏の宿る場所として利用した。
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  • 若桜鉄道若桜駅本屋及びプラットホーム、転車台ほか計23件
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  • 太田家住宅主屋、新建、門長屋
  • 三百田氏住宅
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  • 仮屋通り
  • 木島家住宅主屋
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